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zoom RSS 早過ぎた絶望(1) [横浜地裁 平成19年(わ)第120号]

<<   作成日時 : 2007/04/23 23:56   >>

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・・・昨年の12月に横浜市港北区の自宅居室内で2歳になる自身の長男を殺害したとして殺人の罪に問われた被告の公判が、4月23日に横浜地裁で開かれた。
 罪状認否で、被害者の母親である被告は起訴事実を認めたものの、弁護側は「犯行当時、被告は心神喪失若しくは心神耗弱状態だった」として、刑の減免を主張した。
 証人尋問には被告の姉が出廷。被告の家族関係については「仲の良い家族に見えました」とする反面、被告が長男の成長の遅れを気に病んでいた、とも証言。事件の要因を問われると、「心の病気だったのでは」とも述べ、事件当時、被告がかなり異常な精神状態に追い込まれていた事を示唆した。
 続く被告人質問では、被告のこれ迄の子育てについて多くの時間が割かれたが、発達障害に関する新聞記事を読んで「長男の症状に当てはまると思いました」と述べ、長男の発達の遅れが事件の要因であると釈明した。
 本事件の審理は、後日被告に対する精神鑑定が行われる関係もあり、今後の公判期日は追って指定される事となった。 

(傍聴席)
 警察官2人に連れられて入廷した被告の髪の毛は、まだ30代と言うのに真っ白だった。証人尋問に立った被告の姉は「事件前から白髪が目立っていた」と証言する一方で、「勾留されて以降、更に白髪が増えた」とも述べていた。
 それでいて公判中の被告は、まるで鉄面皮を装うかのように終始無表情だった。弁護人や検事の尋問に対しては、はっきりした口調で丁寧に、しかし淡々と答え続けていたが、時折涙を浮かべて証言を行う姉の姿とはあまりにも対照的だった。後日行われる精神鑑定の結果が待たれる所である。

 それにしても、筆者にとっては何とも気が重くなるような事件だった。
 「2歳の長男が発達障害の症状を見せている事を気に病んで、無理心中を図った」というのが本事件の全体像である。確かに、将来の可能性の芽を摘み取られてしまった子供も哀れでならないが、かと言って被告を糾弾する気にもなれない。何故なら、いくら被告に厳しい刑罰を科した所で、同様の悲劇を抑止する事にはつながらない、と筆者は考えるからだ。
 
 被告は短大卒後、銀行員になり、海外に留学経験も有るとの事だから、比較的恵まれた家庭環境に育って来た様子が窺える。姉曰く、「性格も温厚で真面目・几帳面だった」と言うから、ある意味順風満帆な人生が被告にとっては災いとなった、とも言えるのかも知れない。
 
 被告人質問で子育ての経緯を問われた被告は、「2歳3ヶ月位から大変になって来た」と述べていた。以後は長男の発達障害を疑うようになり、公的福祉や医療機関を含め、様々な所に相談を重ねたものの自身が納得するような結論が得られず思い悩み、「事件前1ヶ月余は殆ど眠れませんでした」との事。
 検事も尋問の中で指摘していたが、本来ならば夫や親族に相談して協力体制を構築して行けばいいものを、全てを1人で背負い込もうとした所に本事件の問題があるとも言えるだろう。と共に、精神的に追い詰められた被告の支えになれなかった周囲の家族にも責任の一端があるような気がしてならない。

 但し、被告の判断はあまりにも短兵急であったと言わざるを得ない。たかだか2歳程度の子供の「言葉を話すのが遅い」から「発達障害(自閉症)であると考えた」というのでは、いくら何でも子供が可哀相である。実際、相談を受けた専門家からも「現時点に於ける判断は早急である」といった趣旨の事を言われ、専門書にも「子供の成長は色々だから、一時的なものに惑わされてはならない」との記述があったそうであるから、被告の「障害に対する認識不足や偏見」が事件の引き金となった点は否定出来ない。
 
 証人尋問で現在の心境を問われた被告の姉は、「妹への怒りの気持ちもありますが、自殺しようとした妹の心情を考えると、胸が張り裂けるような思いがします。」と、涙声になりながら語った。
 筆者はこの言葉に、仲の良かった妹に対する情愛の深さを垣間見た思いがしたが、残念ながら、現在の被告にこうした家族の複雑な思いを受け止める余裕は無いようでもあった。

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
マニュアル通りに育たなかったから殺す?ふざけるなと言いたいです。
障害があるから子育てが大変?違うでしょ。子育ては大変で当たり前なんですよ。
そんな理由で子どもを殺してしまうなら、最初から産むなと言いたいです。
私は、この被告人にも家族にも同情なんかしませんよ。
子どもを産んで育てることをもっとちゃんと考えて欲しいって思います。
この子に障害があってもなくても、思い通りに育たなかったら殺していたんじゃないですかね?この母親は。
と、個人的には思ったりしました。感情的なコメントになってしまったので、不適切でしたら削除してください。
5刑好き
2007/04/24 02:26
 ご覧戴きまして有難うございます。
 おっしゃる通り、本事件に関しては「身勝手な犯行」とも言えるだけに、あまり同情の余地は無いと思われます。
 裁判官や検察官も同様の心証を抱いていたのではないか、と私は推察していますので、今後の争点は「責任能力の有無」に絞られたと言っても過言ではありません。
 私が「被告を糾弾する気になれない」と書いたのは、この手の事件が起こる度に”司法”が被告を裁いても結局同じ悲劇が繰り返されるだけであり、本来ならば児童虐待を含め、”行政”がこうなる前に対応しなければならないのではないか、との思いを抱いたからに他なりません。
 ただそうは言っても、行政の対応にも限界があるのは事実でしょう。むしろ本事件の場合、たかだか2歳程度で「発達傷害」と判断した被告や、育児に悩む被告に適切な助言を与えなかった親族の対応に、私は疑問を感じた次第です。 
執筆者
2007/04/24 17:58
行政での対応は難しいですよ。子育て支援で相談とかやってますけど相談できるって事を知らない人が多すぎると思います。あと発達障害に関しては行政に相談しないほうが良いと個人的には考えています(専門的な知識のある精神科医がいないでしょ?いい加減な対応になってると思いますよ・・・多分)専門的なことを調べたり勉強してない限り、発達障害に対する偏見はあるでしょうね。家族が気付かなかったのは仕方ない気もします・・・同居してなかったでしょうし。てか、旦那はどう思ってるんでしょうか?
5刑好き
2007/04/24 23:24
被告曰く、被告に「発達傷害(自閉症)みたいだ」と言われてショックを受け、布団に入って泣いていたそうです。その姿を見た被告は「夫や親族に申し訳ない」と思うに至り、今回の犯行に及んだようです。
尚、もう一つ付け加えておきますと、本事件を機に被告夫婦は離婚を前提とする交渉を始めた、との事です。
執筆者
2007/04/24 23:48
旦那が泣いていたのは当然っちゃー当然ですが・・・申し訳ないと自分だけのせいにしてるのは、やっぱ自閉症について不勉強だった事が原因でしょうね(自閉症は脳の障害であるとされていて、親の育て方などとの因果関係はないと考えられている)
離婚ですか。子どもがいなくなった今、それも選択のひとつですよね。家族としての(被告人の親兄弟なども含め)全てのバランスが悪かったんでしょう。子どもに罪はないのにね。
5刑好き
2007/04/26 00:50
こういう無残な結果になってしまった以上、離婚は当然の成り行きと言えるのかも知れません。
しかし、仮にお互い一生顔を合わせなかったとしても、後味の悪さは一生ついて回る事でしょう。こうなる前に何かもっといい知恵を出し合っていれば、と思わずにはいられません。
執筆者
2007/04/26 17:47

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