医療行為の当否 [福岡地裁 平成18年(わ)第1045号等]

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・・・昨年に福岡市中央区内の産婦人科医院を受診した患者3人対し、診察の際にわいせつ行為をしたとして準強制わいせつの罪に問われた被告(医師)に対する第2回公判が、3月5日に福岡地裁で開かれた。
 この日の公判は弁護側の冒頭陳述から行われ、弁護側は「被告の行為は患者に対する正当な医療行為である」として、無罪を主張。その後検察側が提出した証拠書類(被告の供述調書等)の朗読を行い、2時間弱の審理を終えた。
 次回公判(3月26日)では、被害を訴えた2人の女性に対する証人尋問が行われる予定。

(傍聴席)
 筆者が福岡地裁の事件を傍聴するのは勿論初めてであるが、いきなり難しい事件に遭遇してしまった。
 本事件の公判が行われている301号法廷は、裁判員裁判に対応出来る形式になっており、多分福岡地裁では一番大きい法廷であると思われる。その割に傍聴者はまばらで、本事件への関心は今一つ、という雰囲気であった。

 本事件は、医師である被告の診療行為そのものが問われている事案であり、判決次第では産婦人科医療の今後に与える影響は少なくないと思われる。
 この日の公判では、弁護側がパワーポイントを使用して被告の診療行為の正当性を主張したが、事件の争点は概ね2点に集約されるようだ。第一は「触診(しょくしん)行為の妥当性」であり、第二は「デジカメ撮影の妥当性」である。

 まず、「触診行為の妥当性」については、被害を訴えた患者の1人が「生理を遅らせる為の薬を処方してもらおうと思っただけなのに、不必要に胸や陰部を触られた」と主張したのに対し、弁護側は「乳房診は乳がん検診の一環であり、触診の範囲内である」とした上で、「被告の医院は問診だけで薬を処方するのではなく、触診を行った上で総合的な観点から判断している」と反論。 
 次に、「デジカメ撮影の妥当性」については、「承諾を求めて来なかったにも拘らず、デジカメで陰部を撮影し、それを本人に見せて来た」と主張する患者に対し、弁護側は「患者への説明目的と、”クレーマー対策”という意味合いから行っており、顔写真は取り違え防止の為である」と反論し、いずれの点についても「そもそも事件そのものが患者の誤解に基づくものである」として、わいせつ行為を全面否定したのである。

 確かに顔写真の撮影については、患者も「同意書にサインをした」と認めている上に、被告も実施するに当っては厚労省に問い合わせをするなどしてその是非を判断するなど、一定の合理性は認められるような気もする(厚労省からは、「患者の取り違え防止の為にはむしろ好ましいが、同意は要する」旨の回答を得た、との事。)。ただ、陰部を撮影する際の承諾方法には曖昧な点があったようで、この点は問題視される可能性が否定出来ない。
 しかし、触診そのものを「わいせつ行為」と捉えるのは如何なものか。大体、医療行為そのものが個々の医師の職業倫理に委ねられる部分が大きく、ましてや産婦人科医の触診がわいせつ行為と認定されてしまっては、医療行為そのものが成立し得ないのではなかろうか。
 本件の発端も、デジカメで撮影されたのを不本意に思った患者が家族(父親)に相談して騒ぎになったようでもあり、「被告がニヤニヤして話し掛けて来た」云々は、後付けで思いついたようにしか筆者には考えられなかった。

 いずれにせよ、事の真偽については審理が進んでいくにつれて明らかになるであろうが、「医師の説明責任と同意(=インフォームドコンセント)」が問われている点は留意すべきであろう。産婦人科医の場合、扱う内容が極めてデリケートなだけに慎重さが求められるのは当然であろうし、患者の同意無しの医療行為は事故につながる危険性がある事も再認識する必要はありそうだ。
 
 筆者としては、本事件の行方を注目したいのはやまやまである。しかし距離的にも難しいので、福岡近辺の方の情報を期待するしかないのが、何とももどかしい。

(追補)
 本事件についての逆転無罪判決を伝える09年5月28日付の共同通信記事は、以下の通り。

 診療を装って3人の患者に陰部を触ったり写真を撮るなどのわいせつ行為を繰り返したとして、準強制わいせつ罪に問われた産婦人科医H被告(45)の控訴審判決で、福岡高裁は28日、一部有罪の1審福岡地裁判決を破棄、全面無罪を言い渡した。

 判決理由で松尾昭一裁判長は被害者の供述について「時間の経過による記憶の薄れや診療行為への勘違いの可能性が否定できない」と指摘。陰部と顔を同一フレームに入れた写真の撮影も「患者識別のためとする被告の供述を不合理と排斥することはできない」と述べ、わいせつ目的の証明はされていないとした。

 一方、松尾裁判長は「十分に意図や目的を説明せずに、写真を安易に確認の手段とした点は問題がある」と戒め、「このような姿勢が患者の不審を買い、トラブルの要因をつくった」と批判した。

 H被告は、福岡市中央区の女性専門のクリニックで2006年3-4月に診察と称して当時16歳と17歳、26歳の女性の体をデジタルカメラで撮影したなどとして起訴されたが、一貫して「医療行為だった」と無罪を主張していた。









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